第7章 暗黒の穴


【わかっても相対論 第7章 暗黒の穴】

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1.ブラックホールの作り方

話を始める前に、今一度ことわっておく。この章「暗黒の穴」も、相対論で遊んでいるので、ここで述べたことが、必ずしもこの宇宙の真実ではないかもしれない。私自身の個人見解も含めて、たくさんある説のなかのひとつだと思っていただきたい。「これが真実だ!」と公の場で叫ばないよう注意してほしい。「Cimarosaさんが言っていた」と主張しても、一般世間に対する説得力はないので。。。

さて、まず確認しておこう。この宇宙にブラックホールは、あると思うか?
(1)そんなものは誰かの想像の産物であって確認されていない
(2)相対論の方程式を解いて出てくる解なのだから、多分あるだろう
(3)無数に見つかっており存在に疑いの余地はない
もはや、言うまでも無いことだが、(3)が答えである。

我が太陽系の極々近傍にブラックホールがあったら、私たちは安心して暮らして行けないから、ブラックホールは、それなりに離れて存在しており、直接それを観測することはできない。
しかし、ブラックホールでなければ説明のつかない現象がいくつも観測されており、その存在には既に疑いの余地がない。
ブラックホールはどのように作られるかを考える前に、星の一生を振り返ってみよう。
Ph.1:恒星の誕生
宇宙空間の塵が集まり、中心部で水素が融合してヘリウムを作る核融合反応が始まる
Ph.2:赤色巨星
核融合が中心部から周辺部へと波及し、星は膨張する
Ph.3:白色矮星
内部ヘリウムの融合により、炭素や酸素が生まれ、外層が散逸し中心核がむき出しになる
Ph.4:超新星爆発
残った中心部で、核融合は最終段階の鉄まで進み、核反応の暴走により大爆発する
Ph.5:中性子星
さらに自らの重さのために縮み、原子核に電子がもぐりこみ、原子核の塊状態になる
Ph.6:ブラックホール
核の収縮に歯止めがなくなり、光も飛び出せないほどの高密度になる
但し、全ての星がこの遷移に従うわけではない。我々の太陽の8倍以下の質量を持つ恒星は超新星爆発は起こさず白色矮星でとどまり、8〜30倍程度の質量を持っていた星が、中性子星に至る。これより重かった星が、ブラックホールになる。極端に重い星の末路、これがブラックホールの作り方だ。

安心した? 我々の太陽は、ブラックホールにはなれない。良かった良かった。でもね、赤色巨星になった段階で、地球は、太陽に飲み込まれるので、それまでには、人類はもっと遠くの惑星、ないしは、他の恒星の惑星へ移動していなければならない。但し我々の孫やひ孫の時代でないことだけは確かなので、あまり心の負担にする必要はない。

それよりも、中性子星ってなんだ? と思った人がいるかもしれない。

原子というものは、原子核の周りに電子が存在するものである。原子核は、電子と同じ数の陽子および陽子数と同じくらいの数の中性子からできている。そして、この状態は、東京駅に直径1メートルの玉を置き、これを原子核とすると、電子は、甲府、水戸、銚子あたりを通る円軌道となるらしい。電子はほとんど大きさを持たないので、原子というものは、隙間だらけということになる。

この隙間だらけの原子内で、膨大な擬縮力により、電子が原子核へもぐりこみ、陽子と合体して中性子になるのである。もともとあった中性子と新たにできた中性子が残るので、原子は中性子の核だけになる。さらにそれが隣の原子とくっつくような状態になったのが、中性子星である。いってみれば巨大な一個の原子核で作られた星である。これは重い。いや想像を絶する。

中性子星から角砂糖一個分を切り出して地球へ持ってきたら、約$100万トン$程になるという。こんな重さを$1cm^2$に集中させたら、多分地球の中心までずぶずぶもぐりこんで行くと思われる。

ところがブラックホールは、これのさらに上を行く。

現在の宇宙で想定されるブラックホールは、概ね上の手段で作られる。例外的に銀河宇宙の中心部に巨大ブラックホールが存在することが知られているが、いずれにしろ、人間がどんなに頑張っても、人為的にブラックホールは作れない。できたらノーベル賞だ。(これは嘘だ。なぜなら地球上でブラックホールを作ったら、多分地球はそのブラックホールに飲み込まれて、バラバラになってしまうだろうから。)


一言いいたい!





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2.ブラックホールとの遭遇

この項では、もし、ブラックホールが地球めがけて飛んで来たら、という事態を考える。
とてつもなく大きいブラックホールが接近した場合は、地球など一飲みにしてしまうことは自明なので、仮に小さなブラックホール(半径$1cm$くらい)が飛んで来たと考えよう。

アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」のような現象がおこる、と考えた人がいるだろう。

甘い。

物質が、ブラックホールとなるためには、「光も飛び出すことのできない」というのが条件であり、これを満たすためには、物質の大きさが、以下の値で示される半径より小さくならなければならない。
\begin{eqnarray} r=\frac{2GM}{c^2} \end{eqnarray} この半径($r$)を「シュワルツシルドの半径」という。また($M$)は、物質の質量、($c$)はもちろん光速度、($G$)は、万有引力定数である。

ここで、半径($r$)を、$1(cm)$として($M$)を計算すると、$G=6.67408・10^{-11}(m^3kg^{-1}秒^{-2})$ なので、
\begin{eqnarray} M &=& \frac{rc^2}{2G} \\ &=& \frac{0.01・300000000^2}{2・6.67408・10^{-11}} \\ &=& \frac{9・10^{14}}{2・6.67408・10^{-11}} \\ &\approx~& 6.674・10^{24}(kg) \end{eqnarray} 地球の質量が、$5.9742・10^{24}(kg)$だから、オーダーとしては、地球と同じほどの質量である。

地球と同じほどの質量をどこかから調達して来て、それを半径$1cm$の球の中へ押し込んでしまうとブラックホールができあがる。(どうやって、地球と同じほどの質量を持ってくるか、また、それを半径$1cm$に押し込むかの手段は、この際問わないことにしよう。)

これを地球上でやったとしよう。前項で、中性子星のかけら($100$万トン)を持ってきたら、地球の中心までずぶずぶともぐりこんで行く、と書いた。これは、$100$万トンという質量が、地球に比べると遥かに小さいから言えることであって、ブラックホールになると、そうは行かない。地球と同等の引力を半径$1cm$の球が持っているのだ。これは、地球が半径$1cm$の球に飲み込まれる必要がある。しかし、あまりに地球の方が大きいため、次のようなことが起こる(と思われる)。

ブラックホールが地球に接している点と、その反対側では、引力の大きさが著しく異なる。従って、ものすごい潮汐力を受ける。(潮汐力というのは、文字からわかるように潮の満ち引きのことで、これは月が地球に及ぼす引力によって発生する。月とは桁違いに重いものが身近にあるのだから、これはものすごい潮の満ち引き...)つまり、地球は、ブラックホールに向かった方向へ、引っ張られたかっこうで、引き延ばされることになる。地球は、水飴のような流動体ではないので、延びる前に砕け散る(と思われる)。砕け散った破片が、またそれぞれに潮汐力を受け、砕け散り...を繰り返した結果、半径$1cm$以下にまで砕け散ったかけらがどんどんブラックホールに吸い込まれて行く、という光景になる(はずである)。
従って、もし、地球ほどの質量を半径$1cm$の球に閉じこめる方法を発見したとしても、それを絶対に地球上で実験してはならない。成功した瞬間、上記の事態が発生し、ノーベル賞どころではない。

これが彼方から飛んでくるのだ。半径$1cm$程のブラックホールが、彼方から地球めがけて飛んできたらどうなるか?ブラックホールの飛んでくる方向と速度により、発生する現象は異なるが、その異変に気付いたときは、もう遅い。
もし、地球めがけて比較的低速で飛んで来た場合、大気がブラックホールめがけて吸い込まれることが最初に観測されるに違いない。そして海水が、竜巻のようにブラックホールめがけて落ちて行く。そのあとは、上に書いたのと同じ事になる。

もし、ブラックホールが超高速で飛んで来たら、スイカを弾丸で撃ち抜いたようになる。もしかしたら、地球全体は、ブラックホールに落ち込まずに済むかも知れないが、結果は、ろくなもんじゃない。

もし、地球めがけて飛んでこず、至近距離を通り過ぎた場合は、速度と距離によっては、地球は砕け散らずに、ブラックホールと連星を構成するかもしれない。その時は、地球はブラックホールにつかまったきり、太陽系とはおさらば。たとえ、ブラックホール自身が太陽に捕まって太陽の周りを公転し始めたとしても、惑星になるのはブラックホールであり、地球はブラックホールの衛星である。四季折々に俳句を詠んだりする風雅な生活をおくることができるとは考えられない。

なるべくなら、私が生きている間は、ブラックホールとは遭遇したくないものである。


一言いいたい!





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3.ブラックホールへの接近

私個人は、ブラックホールに遭遇したくないのだが、世の中には、冒険家と呼ばれる人がいて、ブラックホールの中がどうなっているのか確かめてみたいという欲望というか義務感というかそういうものを持った人がいるものである。彼をこの項では「A」と呼ぼう。そして、私のように、平々凡々と暮らしたい人がいて、地球に残り、「A」からの連絡だけをひたすら待っている人を「B」と呼ぶことにする。
AとBは、同い年の友人であるとする。Aは宇宙船に乗って地球の近傍を光速度の$99.9\%$という巡航速度で出発し、$10$光年先にあるブラックホールへ向かったとする。なに、どっかで聞いたような設定だって? 第6章の3項「相対論マジック」と同じ設定である。この方が、話を進めやすいのである。あのときと同じ状況であると思ってほしい。

さて、この項では、ブラックホールへ向かったAの立場になってもらいたい。私はBのほうがいい、と思う人も、ここでは、是非ともAになってほしい。

Aは、光速度の$99.9\%$で$10$光年はなれた星(ブラックホールだよ)に向かう。すると、約$164$日で、ブラックホール近傍に近づく。(話がおかしい、と思う人は、第6章の3項「相対論マジック」をおさらいしてちょーだい)
Aの目の前には、すら出てこない黒い穴がある。それは、「シュワルツシルドの球」に囲まれた、外からは全く見えない宇宙の穴である。今書いた、シュワルツシルドの球のことを「事象の地平線」と呼ぶことがある。なぜなら、そこからはいかなる情報も出てこないからである。(本当は地平面であるはずだが、そう呼ぶと、みんなの理解を妨げるので、地平線と呼ぶらしい。但しこの読み物では、今後、「シュワルツシルド球」=「事象の地平面」と呼ぶ。

ここでひとつ考察しておこう。地球上にいる私たちにも、地球の重力が働いている。(正確に言えば、太陽、月、金星、火星・・・、あらゆる天体の重力が働いている。)だから、もちろん地上にいる私たちも曲がった時空間にいることになる。
しかし、ブラックホールの近傍の重力の大きさは、そんなももの比ではない。光ですら束縛される程の時空の歪みなのである。そんな場所に比べれば、地球上の私たちは、ほぼ慣性系にいると見なしてもいい。
ブラックホールというのは、言ってみれば、時空間の曲がりが普通でない場所である。「事象の地平面」の外では通用する常識は、この極端な歪みの場に適用できるのか? まずブラックホールの大きさはどのくらいか? ブラックホールの質量は、光の曲がりから計算することができる。だがそれ以外の情報は(事象の地平面の外にいる者にとっては)ない。だって、どうしたって観測できないんだから。Bは、事象の地平面までしか知ることはできないのだ。

それでは、ブラックホールの中は、物理学の対象にしてはいけないのではないか。お前は散々そう言ったではないか、と突っ込む人は非常にこの話しをよく読んでくれている人である。確かにブラックホールの中がどうなっているのかわからない。但し、それは事象の地平面の外にいるBには、である。ブラックホールの中に飛び込むAにとっては、実在する現象である。ただ、そこで知り得た事実を事象の地平面の外に知らせることができないだけである。

かなり強引な論法であることは、自分でもわかっている。でも、ブラックホールの中がどうなっているか知りたいではないか。そして、知ろうと思えば、ブラックホールに飛び込んでみればいいのだ。私には、その勇気がないだけである。

言っておくが、事象の地平面は、数学的な特異点を持っているわけでもなんでもない。Aにとっては、単なる通過点である。しかし、ブラックホールとは、巨大な原子核のような超高密度の中性子星が、さらに重力崩壊を起こしてできるものである。もう、崩壊を支える力は存在しない世界だ。従って、ブラックホールは、中心の一点めがけて崩壊し続けるしかない。つまり事象の地平面の中は、その中心点に特異点があるだけの存在になってしまう。
地球と異なって、ほとんど慣性系であると近似してよいような普通の状態ではないのである。

Aはブラックホールの近傍で、すでに巨大な潮汐力のため体を上下に引っ張られ、それが、事象の地平面の中に入ってどんどん大きくなって行く。ただひたすら、中心の特異点に向かって落下する。(潮汐力のため、こなごなになり、通常の物質ではなくなってしまうのだが...)

本当に特異点は存在するのか?そして、この様子を地球のBは、どう見るのか?


一言いいたい!





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4.ブラックホールへ落ち行く者を見る

この項では、ブラックホールへ向かった「A」を、地球から観測する者「B」の立場にたって何が見えるかを考えてみよう。
Aは、地球の脇を光速の$99.9\%$で通り過ぎた。そして$10$光年先のブラックホールへ向かったのだ。
Bは、Aが遠ざかる様子を望遠鏡で観察することができる。その結果、Bは次のようにAを観測するはずである。
(1)遠ざかりつつあるAの長さと時間は縮んで観測される。
   特殊相対論の結論だが、これはまあ置いておこう。
(2)Aは、光速の$99.9\%$で$10$光年先のブラックホールへ向かっているのだから、
   $(時間)=\frac{(距離)}{(速度)}=\frac{10}{0.999}=10.01(年)\approx~3654(日)$
   つまり、$10$年と$4$日かかって、Aはブラックホールの近傍へと到着する。
(3)ブラックホールに近づくと、ブラックホールの存在により、Bにとって、
   Aのいる時空間の曲がりは増して行く。
(4)時空間の曲がりが大きくなるほど、Bにとって、Aの時計は遅れて見えてくる。
(5)「事象の地平面」では、光さえ戻ってこれない程時空間の曲がりが大きくなり、
   BにとってAの時計は止まる。
これは何を意味するか。そう、Bが見ていると、Aは「事象の地平面」で停止してしまう。いつまで観測しても、Aはブラックホールには落ちて行かない。正確に表現すると、Aは限りなく「事象の地平面」に近づいて行くが、決して「事象の地平面」には到達できない。

これは、ブラックホールへ飛び込むAの立場(前項で記述)と、全然異なる。Aの立場では、まったく時間は遅れることなく、「事象の地平面」を通り抜け、ブラックホールへ落ちて行くはずであった。

ところが、「事象の地平面」の外にいるもの(B)にとっては、ブラックホールへ向かう者(A)は、決してブラックホールにたどり着くことはないのである。

とても不思議だが、これが結論だ。というより、こうだからこそ、Aが発した情報(光)は、「事象の地平面」より先からは、絶対来ないのだ。BはAから「事象の地平面」内の情報を永遠に聞くことができない、それはAが「事象の地平面」にたどり着かないからだ。ある意味でロマンチックかもしれない。BはAの最後を見ることはないのである。

しつこく書いたが、前項と本項をもう一度読んで、納得してほしい。


一言いいたい!





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5.ブラックホールに落ちた物はどこへ行く

先に、事象の地平面に特異点はない、と書いた。すらそこからは出て来ない、という意味で、「シュワルツシルド球」を事象の地平面と呼んだのである。

いま、「ブラックホールの近傍に位置し、ブラックホールから一定の距離を保つためにブラックホールから遠ざかるように絶えず加速されている」観測者を考える。(これをクルスカル座標系にいる者、と表現するらしい。)詳細は、数式を用いないと正確には表現できないので、結論だけをとりあえずいうと、
クルスカル座標系の、ある特別な時刻において、ブラックホール内部の空間と外部の空間が連結されることが導かれるという。(理解できなくてよい。私にもよくわからん。)
この連結された領域を「アインシュタイン−ローゼンの橋」または「シュワルツシルドの喉」というらしい。これは、SF的な言葉でいうと、「ワームホール」である。面白い人には面白い展開である。つまり、ブラックホールに飛び込んだ者は、ブラックホールの内部から、そこに繋がった外部へ抜けられるということだ。この通り道が「ワームホール」、つまりワームホールを通ると、「ワープ」できるのである。(ワープもSF用語であり、時間をかけずに、遠く離れた空間に跳んで行く事である。)「宇宙戦艦ヤマト」が、宇宙の彼方イスカンダルへ行って帰ってこれた理由の裏付けが、物理学的に存在する、ということである。
このクルスカル座標系には、もうひとつの領域があって、それは「ホワイトホール」と呼ばれる。(出ましたねぇ)ホワイトホールは、ブラックホールを時間的に逆さまにしたようなものである。つまりホワイトホールにもシュワルツシルド半径が存在するが、それを事象の地平面とは呼びづらい。なぜなら、いかなるものもホワイトホールの中に入ることはできないからだ。ホワイトホールからは何かが飛び出してきてもかまわないが、そのエネルギーの元がホワイトホールの中になければならないという。誰でも考える、ブラックホールとホワイトホールを特異点ができないように繋いでやれば、すべてバンザイうまく行く。

ちょっと、言葉的に理解不能なものの羅列になったので、私の比喩で置き換えてみる。
ブラックホールに落ち込んだ物は、中心の特異点には落ち込まず、ぎりぎりのところでワームホールを通って、ホワイトホールから抜ける。
ワームホールの抜け口は、明らかにホワイトホールになるから、まとめて上記のように書いた。そして、抜け口(ホワイトホール)は、この宇宙にはない。なぜなら、この宇宙の者が見ている限りブラックホールには何ものも落ちて行かないからだ。事象の地平面で、全ての物体が凍結してしまうことを思い出してもらいたい。
つまり、ブラックホールに飛び込んでしまった物は、どこか別の宇宙に出るしかない。その宇宙がどんな宇宙であるか知らないが、もしホワイトホールばかりの宇宙だったら、そりゃあ、いったいどんな宇宙だ?噴水みたいな宇宙だ。

うまく理屈づければ、ブラックホールもあり、ホワイトホールもバランスよくある宇宙がよいのだろうが、少なくとも我々の宇宙にホワイトホールは見つかっていない。
私見であるが、ブラックホールの中心に特異点がある、というのは何となく納得できない。だから、ブラックホールの中心で、特異点でない、どこかへするっと抜けて、ホワイトホールの宇宙へ繋がっている、と考えたい。多分その宇宙は、ホワイトホールだらけなのに、収縮しているに違いない。そしてその宇宙こそ、万有斥力の宇宙である、という気がする。みなさんの考えはどうだろうか?

今、ブラックホールとホワイトホールがワームホールで結ばれる、というモデルを考えた。このモデルを$100\%$無条件に当てはめてみると、妙ではないか? と考えた人がいるかもしれない。それは次のような疑問である。
ブラックホール内の質量が、ワームホールから外へ出て行くならば、ブラックホールは、急速に質量を失い、ブラックホールでなくなってしまうのではないか?
言われてみると、確かにそうだ、と思う人が多いと想像する。
ところが、これは考え違いというものだ。なぜなら、この宇宙にできてしまったブラックホールは、極端に通常でない者(クルスカル座標系のある特別な時刻の者)にしか、ワームホールやホワイトホールを導くことができないからだ。つまり、通常の者には、ブラックホール誕生後、そこへ飛び込んで行くものは存在しない。全て事象の地平面でストップしている!


一言いいたい!





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6.ブラックホールの蒸発

本項は、「ブラックホールの蒸発」がテーマである。実はこれ、ホーキング博士の提唱した理論なのだが、知っている人も多いだろう。

みなさんは、「真空」をどう定義するだろうか?

実は、「真空」とは、何もない空っぽの場所ではない。もし何もない空っぽの場所があったら、そこは空間ですらない。

では、「真空」には何が存在するのか? 量子論の結論は、「揺らぎがある」ということだ。
「揺らぎ」って何だ? 考えてもわからない、多分。

実は、真空中には、「粒子」と「反粒子」が、生成・消滅を繰り返しており、それが「揺らぎ」だというのである。よくわからん? 多分それで正常である。

ハイゼンベルク不確定性原理」によると、「エネルギー」と「時間」は、不確定の関係になる。すなわち \begin{eqnarray} \Delta~E・\Delta~t=h \end{eqnarray} である。($h$はプランク定数と呼ばれる、量子論では重要な定数である。)

この式の意味は、物質の「エネルギー」の不確かさ($\Delta~E$で表す)をゼロに近づけると、その物質がそのエネルギーを持つ「時間」($\Delta~t$で表す)がわからなくなり、逆に物質の存在する「時間」($\Delta~t$)を正確に決めようとすると、その「時間」帯の「エネルギー」($\Delta~E$)がわからなくなる。わからないよねぇ。

言い換える。 物質の「エネルギー」を確定させる($\Delta~E=0$)と、物質がそのエネルギーでいる「時間」が無限大になる($\Delta~t=\infty$)。つまり、いつでも、そのエネルギーだ、ということになる。(これを物質の「定常状態」という)
逆に物質の存在する「時間」を確定させる($\Delta~t=0$)と、「エネルギー」の幅が無限大($\Delta~E=\infty$)になる。つまり、極めて短い時間なら、とてつもないエネルギーが存在してもよいことになる。これが「真空の揺らぎ」だ。

まだ、わからんよなあ。つまり、一瞬なら、大きなエネルギーが生まれても、「エネルギー保存測」は文句を言えないのだ。(あーあ、ついに、「エネルギー保存則」まで危うくなってしまった。)

さて、「真空の揺らぎ」によって、何もない空間に、粒子と反粒子が生まれる。これを「対創生」という。そして、極めて短時間で、対創生された粒子は、再び消える。これを「対消滅」と呼ぶ。
創生・消滅が短時間に起こるため、長い時間そこを見ている私たちには、それを認識できない、ということになるわけだが、これがブラックホール近傍で発生すると話が少し変わってくる。

シュワルツシルドの球面」の内と外の境目近辺でも、真空の揺らぎは発生している。粒子と反粒子が頻繁に生まれては消えて行く。通常の場合は創生と消滅が相殺して元の黙阿弥になる。ところが、シュワルツシルド球面の極々近傍(外側)でこれが起こると話がややこしくなる。対創生された二つの粒子の一方がブラックホールに落ち、他方ががその反作用で遠くに飛び去る、ということが、起こる場合がある。つまり、対創生があっても、対消滅が起こらない場合が、希にあるということだ。

さて、なにが起こったように見える?

粒子がブラックホールから飛びだしているように見えるのだ。

真空の揺らぎによる対創生でできる反粒子は負のエネルギーを持つ。正粒子は、正のエネルギーである。だから対消滅で、元の木阿弥でエネルギー収支が合うのである。
負のエネルギーを持つ反粒子は、正のエネルギーの塊であるブラックホールに引かれて、ブラックホール内へ飛び込み、正のエネルギーの粒子がブラックホールから飛び去る。その結果、負のエネルギーを吸い込んだブラックホールは、内部のエネルギーを減らす、つまり質量が減ることになる。

とんでもないことを考えてしまったものである。これでは、ブラックホールがブラックホールでなくなってしまうではないか!
と心配しなくていい。この宇宙に存在する恒星から生まれたブラックホールのように規模の大きなものは、蒸発するより多量の物質を吸い込むので、無くなってしまう心配はほとんどない(そうだ)。この「蒸発効果」が効いて来るのは、ビッグバン初期に生まれたミニ・ブラックホールだけだという。これらは、ほとんど蒸発してしまい、今、っているとすれば、$10^{-15}m$くらいの大きさである(らしい)。こんな素粒子みたいに小さなブラックホールの中に$10$億トン程度の質量がつまっている(と言う人もいる)。そしてこのミニ・ブラックホールは$1$秒ほどで蒸発する(らしい)。これは、もはや「蒸発」というより「爆発」である。

うーん、考えるのも疲れて来た。こんなものと遭遇しないことを祈るばかりである。


一言いいたい!





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7.ブラックホールの末路

前項で、この宇宙で、恒星から生まれた大きなブラックホールは蒸発するのに大変な時間がかかるという話をした。
しかしながら加速膨張する宇宙においては、宇宙の密度はどんどん薄まって行き、時間にも制限がない。ならば、結局はブラックホールも蒸発し、最終的には物質すら存在し得なくなり、茫洋とかすかな光だけがただよう冷たい宇宙、ということになるのだろう。

だが、このようなある意味面白みに欠ける話で終わりにするには惜しい議論があるので、ここで提起しておきたい。

ある奇妙な結論が出ていたことを思い出してもらいたいのだ。ブラックホールに飛び込んで行く者を見送ったあなたには、ブラックホールの成長を見ることはできない、という事実だ。
なぜなら、事象の地平面で全ての物質は凍りつき、何物も、ブラックホールに落ちて行くことはないからだ。

つまり、ブラックホールに飲み込まれるほど、ブラックホールの重力の影響が深刻ではない者にとっては、ブラックホールに落ちて行く「もの」はない、ということになる。

ところが、ブラックホールに落ち行く者にとっては、事情が全く異なる。帰還不能となる事象の地平面は物理的になんの変哲もないただの空間だ。おそらくは、落ち行く者は、そこを通過したことさえ気付かないかもしれない。

この相反する事象にどう折り合いをつけたらよいのだろうか。
ブラックホールから遠く離れた者:
ブラックホールに飛び込んで行くものはなにもない。従って、できてしまったブラックホールは成長しない

ブラックホールに飛び込んだ者:
なんの障害もなくブラックホールに接近する。従って、ブラックホールの質量は増加し成長する
この問題に解を与えた人物は、レオナルド・サスキンドという物理学者である。

ある例え話をする。
量子論の話になるので、詳細は「なにはさておき量子論」に譲るが、『不確定性原理』という一連の定理が存在する。
これは、粒子の位置運動量を同時に正確には決定できない、という原理である。

粒子の位置を正確に観測、測定すれば、その粒子の運動量は全くわからなくなり、運動量を正確に観測、測定すれば、位置が完全に不定になるのである。
(前項に登場した、時間エネルギーの不確定も事情は同じである。)
これは矛盾ではないのか。

実際には、矛盾ではない。
なぜなら、位置と運動量とを同時に決定することができないからだ。
どちらか一方なら限りなく正確に測定できるが、同時に決めることはできない。これは観測者の選択の問題になる。

ブラックホール問題もこれと同じである。

ブラックホールから遠く離れて、落ち行く者を見ている立場では、ブラックホールに落ちてしまうものはない。これは事実。
ブラックホールに飛び込むことを選択した者は、ごく自然にブラックホール内に入ることになるが、一旦飛び込んだら二度と外に出てくることはない。

つまり、両者の観測事項の相違を付き合わせて確認することは絶対できない。それができない以上、どちらの言い分が正しいかは誰にもわからない。
絶対に統合不可能な観測は、矛盾にすらなれないのである。

無限と言ってよい時が流れれば、おそらくは、宇宙全てがブラックホールに飛び込み、そしてそのブラックホールすら蒸発によって消え失せる。
それが、末路なのだろう。

いかに考えても答えは藪の中。
朝永振一郎先生が、ファインマン氏の言葉を引用して、こう書いている。

「夜、街灯の下で何か探している人がいる。何を探しているかときくと、鍵を落としたという。どこで落としたかと聞くと、どうも向こうの暗いところで落としたらしいが、あそこは暗くてわからないからここを探しているのだ、と答えた。今の物理学はそんなものだよ。」

我々が宇宙を論ずるのもこんなものなのかもしれない。



【本章の参考文献】
  レオナルド・サスキンド著、村田陽子訳
   「ブラックホール戦争 スティーブン・ホーキングとの20年越しの闘い」 日経BP社

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