【わかるまで素粒子論「入門編」 第2章 4つの力】
目次へ 次へ進む 前へ戻る
1.物質に働く力
私たちが、この宇宙で物質に働く力の種類として、ここまでに、何を知っているかを確認しておきたい。(前章までのおさらいである。)
(1)重力
(2)電磁気力
(3)核子間に働く力(現状はまだ謎の力)
以上の三種である(はずだ)。
まず、(1)の
重力であるが、これはみなさん説明しなくとも既にお分かりだろう。
ニュートンが言った、いわゆる「
万有引力」のことである。
質量と質量の間に働く引力のことだ。但し、「
わかっても相対論」では、重力などという力は存在せず、それは幾何学的な時空間の曲がりとして説明される、と言った。そして、「
なにはさておき量子論」の、
量子論的「
場」の概念では、
仮想重力子が飛び交うところ、と定義したのである。(何の事やら理解できない人は健全である。知りたければ、「わかっても相対論」と「なにはさておき量子論」を
復讐いや
復習してみよう。)
次に、(2)の
電磁気力は、「
電荷」及び「
磁気」を持った物質間に働く力のことだ。
量子論的「場」の概念では、「仮想光子」の飛び交うところ、である。
そして、(3)は、前章の最後で現れた、
核子と核子の間に働く引力である。
陽子と陽子の間に働く
クーロン力(斥力)は、電荷同士の距離の二乗に反比例して小さくなる。逆に言えば、距離が近いほど大きい。
原子核の大きさ(約$10^{-15}m$)の中に複数の陽子が存在することを考えれば、その力に逆らって核子を結びつけるのだから、この力は極めて大きいと結論できる。
この核子間に働く力を、これからは「
核力」と呼ぶ。
ところで、、前章で私は、この核力には三種類あるのではないか? という疑問を提示した。
@$p-p$間力(陽子と陽子に働く力)
A$n-n$間力(中性子と中性子に働く力
B$p-n$間力(陽子と中性子に働く力)
の三種類である。
湯川秀樹博士を知っていて、何の功績で日本人初の
ノーベル賞を受賞したのかも知っているなら、核力を媒介する粒子を知っている人も多いことだろう。だから、この三種の力を区別する必要性を認めない人もたくさんいるだろう。
ならば、逆に聞きたい。$p$(陽子)と$n$(中性子)を異なる素粒子であると認識している今、上記の三種の力が同じであると結論する理由はいったい何なのか、あなたは説明できるか?
一言いいたい!
【わかるまで素粒子論「入門編」 第2章 4つの力】
目次へ 次へ進む 前へ戻る
2.ベータ崩壊
原子核内部での力、即ち
@$p-p$間力
A$n-n$間力
B$p-n$間力
の三種類の引力(
核力)がなぜ同じものなのか?
前項で最後に提示したことへの答えを言おう。
まずひとつ詭弁があったことを告白する。それは、
「$p$(陽子)と$n$(中性子)を異なる素粒子であると認識している今、上記の三種が同じであると結論する理由」という文章である。
重力は、「
質量」を持つ粒子間に働く力であり、同じ粒子間だけに働くものではない。同様に
電磁気力も、「
電荷」を持つ全ての粒子間に働くものであり、同じ粒子間に働くものではない。
だから、「核力」だって、同じ粒子間に働く必要は全然ない。従って上記@〜Bが同じ力であることに、何の問題もない。問題になるのは、
「核力」が「なに」を持った粒子間に働く力なのか? ということである。
本当は、それをきちんと解決しなければ、上記@〜Bは同じものであるとは言えないのだ。
ところが、
湯川博士が核力を媒介する粒子として「
中間子」を言い出したとき、実は、この「なに」が、分かっていなかったにもかかわらず、全然問題にされなかった。つまり、陽子と中性子を媒介する力の「元になるもの」は不明のままだったのである。(湯川博士を非難している訳ではないので誤解なきよう。)
このように、力の元が不明なのに、「中間子」が登場したのには、理由がある。
それは、「陽子」は「中性子」に、「中性子」は「陽子」に変わりうる、という事実が既に知られていたからである。それも、原子核内でそれは起こる。原子核内でこの現象が起こる以上、
陽子と中性子は、「単一粒子の異なる状態」と見なすことができ、上記@〜Bを区別する必要がなかったのである。したがって核力は一種類。これが答えだ。
補足
中性子は、原子核外でも陽子に変わることができるが、陽子は原子核外で中性子に変わることがない。(本当は、こう言い切ってしまってはまずいのだが、それについては、ずーっと後で述べる。もしかしたら、【入門編】ではないかもしれない。)
原子核内で、「陽子」が「中性子」に、「中性子」が「陽子」に変わる現象を「
ベータ崩壊」という。
ラザフォードが
原子モデルを発表した1911年の2年後、
パウリが、既に現象としては知られていたベータ崩壊を研究し、次のような結論を出した。
中性子過剰の原子核では、核内の中性子が、陽子と
電子及び
反ニュートリノに崩壊する。
$n^{0} = p^{+} + e^{-} + \overline{\nu^{0}}$
これを$\beta^{-}$崩壊といい、中性子が陽子に変わる現象である。(肩の記号は電荷を表す。)
次に、陽子過剰の原子核では、核内の陽子が、中性子と
陽電子及びニュートリノに崩壊する。
$p^{+} = n^{0} + \overline{e^{+}} + \nu^{0}$
これを$\beta^{+}$崩壊といい、陽子が中性子に変わる現象である。(オーバーラインは、
反粒子を表す。)
注意1
自然界に存在する原子核は、中性子が陽子と等しいか、または多い。したがって現象的には、$\beta^{-}$崩壊の方が$\beta^{+}$崩壊より圧倒的に多い。また、補足で書いたように、裸の中性子は自然に$\beta^{-}$崩壊を起こすため、ベータ崩壊というと、$\beta^{-}$崩壊のことだと思っているいる人が多い。この機会に$\beta^{+}$崩壊も覚えておくとよい。
注意2
この項では、陽電子・ニュートリノ及び反ニュートリノ、更に中間子までもが登場したが、この項では、とりあえず、そんなものがある、とだけ認識してもらいたい。詳細は別途説明する。
さて、三種類の核力は同一であることが分かった。とすれば、「$p-p$間力」だけ、電磁気力(斥力)が発生するので、核子の結びつきが不安定になる。もし、
原子核の性質(元素)が、$p$の数で決まるなら、$p$だけでなく、$n$があった方が原子核は安定になるのである。($p$と$p$の間に入って、$p$と$p$の間に距離を取る役目と思えばよい。)従って、原子核には中性子が存在してよいのである。
最初は、ベータ崩壊を起こす力が核力である、と考えられた時期もあった。つまり原子核内で、$p$が$n$に、$n$が$p$に変換することにより、そこに引力が生まれる、という論法だ。交換される粒子は、電子(陽電子)と反ニュートリノ(ニュートリノ)である。しかし、疑問もあった。それは、交換している粒子が、双方で異なることだ。
さらに、このベータ崩壊により現れる力を計算してみると、電磁気力よりずっと小さいことが分かったのだ。この力では核子をまとめることは全く不可能だったのである。
だとすれば、このベータ崩壊という現象は、いったい何なのだという疑問が湧く。しかし、ある種の力であることは確かであり、この力は
「弱い力(相互作用)」と名付けられることになった。
(粒子間に働く力、というより
核子の崩壊を促す力として現れるので、弱い相互作用とも呼ばれるのである。)
これで、私たちは自然界の4つの力を知った。
(1)重力
(2)電磁気力
(3)核力
(4)弱い力(相互作用)
である。
一言いいたい!
【わかるまで素粒子論「入門編」 第2章 4つの力】
目次へ 次へ進む 前へ戻る
3.中間子
さて、前項までに出てきた素粒子を整理しておこう。
(1)光子(電磁気力を媒介する粒子)
(2)重力子(重力を媒介する粒子)
(3)電子(負電荷を持ち、原子核周辺に存在し、原子を構成する粒子)
(4)陽電子(電子と、電荷の符号だけが異なる粒子)
(5)陽子(正電荷を持ち、原子核を構成する粒子)
(6)中性子(電荷を持たず、原子核を構成する粒子)
(7)反ニュートリノ($\beta^{-}$崩壊で、電子と共に現れる粒子)
(8)ニュートリノ($\beta^{+}$崩壊で、陽電子と共に現れる粒子)
(9)中間子(核力を媒介する粒子)
量子論的な場では、力の働くところには、それを媒介する粒子が存在(
近接力)する、ということになっている。
電磁気力(
クーロン力)は、
光子の
キャッチボールにより発生する。
重力は、未発見の粒子である
重力子(グラビトン)のキャッチボールにより発生する(と考えられている)。
弱い力(
ベータ崩壊)は、当面何が媒介(?)しているか不明である。
それでは、核力を媒介する粒子は何か?
本当は
フライングなのだが、前項で名前だけ言ってしまった。
湯川秀樹博士は、この粒子の
質量を計算で求め、電子と
核子の中間くらい(電子の$200$倍強)であると予言し、これに「
中間子」という名を付けた。よって、核力とは、中間子場である、ということになった。
余談
実は、湯川の「中間子論」は非常に評判が悪かった。理由は、未知の粒子を仮定すれば、どんな自然現象でも説明できてしまう、ということからである。更に、中間子発生の元になる「なにか」が説明できていないことも理由のひとつだったかもしれない。
量子論育ての親で有名なボーアが来日したとき、熱心に中間子論を説く湯川に対し、「君は、そんなに新しい粒子が好きか。」と冷ややかに言った、という話は有名だ。
また、(本当かどうか未確認の噂であるが)湯川と同じように中間子論を思いついたシュティケルベルクという学生は、先生であるパウリに、「いくらつじつまが合うからといって、勝手な粒子を仮定するもんじゃない。」と、論文が却下されてしまったという話もある。
閑話休題
とにかく、紆余曲折はあったものの、後に
宇宙線の観測により、この「中間子」は発見され、質量が電子の$260$倍程度であることが確認され、核力を媒介する粒子として認められた。(中間子論は、1935年に発表され、中間子の確認は1947年だった。)
付け加えておくと、中間子が核力を媒介する範囲は極めて小さく(これが、即ち原子核の大きさになる)、その力の大きさは電磁気力の$100$倍である。このため、原子核は極めて小さな領域にしか存在できない。
ここで、本当は、棚上げにしておいた、「核力を発生させる元になる量」の話をしなければならないのであるが、
ある理由により、この説明は今の段階ではできない。この話は「常識編」でないとできない理由がある。(知っている人は、話したくて、うずうずしているかもしれないが、ネタバレは控える。ものには順序というものがある。)
一言いいたい!
【わかるまで素粒子論「入門編」 第2章 4つの力】
目次へ 次へ進む 前へ戻る
4.弱い力
前項では「
弱い力(
ベータ崩壊を引き起こす力)は、当面何が媒介(?)しているか不明である」と書いた。
重力に対しては、(未発見ではあるが)
重力子(グラビトン)がある。
電磁気力を媒介するのは、
光子(フォトン)である。
そして、
核力を媒介するのが、前項で説明した
中間子なのであった。
それでは、「
弱い力」は何が媒介するのか? そもそも、弱い力は、何が何を交換して働く力なんだ? という疑問は当然である。
実は、「弱い力」は、
核子が「
ウィークボソン」という粒子と相互作用するのである。
言い換えると、
ウィークボソン場において、
仮想ウィークボソンが、核子と
相互作用すると、核子の変換(
中性子を
陽子に、陽子を中性子に)を起こし、仮想ウィークボソンが実体化し、極短時間で
電子と
ニュートリノに分裂するのである。(何回か読み返さないと、分からないと思う。)
今までに登場して、理解できている
電磁場を、ウィークボソン場に置き換えて考えてみる。
核子は、仮想ウィークボソンを出したり、吸い込んだりしている。(これを呼吸する、と表現する。)
ただ呼吸しているだけなら何も起こらないが、たまたまはき出した仮想ウィークボソンを別の粒子が捕まえてしまうと、その粒子間に力が働く。これが「弱い力」である。 ここまではよい。しかし、その先がうまく説明できなくなる。
例えば、電磁場では、
電荷を持った粒子が仮想光子をキャッチボール → 粒子間に引力・斥力が発生
と表現できる。
これを弱い力にあてはめてみると
何らかの荷量を持った粒子が仮想ウィークボソンをキャッチボール → 何も発生しない(強いて言うなら粒子が変身する)
ということになっている。
起こっているのはベータ崩壊だ。「弱い力」とベータ崩壊をつなぐ理屈は何なのだ、こう考えたあなたは、とってもまともである。 そこで、これからそれを説明する。
起こりうる現象の種類は、
(1)陽子がはき出した仮想ウィークボソンを陽子が捕まえた場合
(2)陽子がはき出した仮想ウィークボソンを中性子が捕まえた場合
(3)中性子がはき出した仮想ウィークボソンを中性子が捕まえた場合
(4)中性子がはき出した仮想ウィークボソンを陽子が捕まえた場合
以上、4通りが考えられる。(異論はありませんね。)
これを全部ひっくるめて説明するためには、
仮想ウィークボソンとは、核子間に、引力・斥力をもたらすのではなくて、吸い込んだ核子を変身させると考えなければならない。
今、仮想ウィークボソンを仮に($W$)で表現すると、上記(1)のケースでは、
$p + p → (p + W) + p → p + (p + W) → p + ( n + e^{+} + \nu)$
第1項:二つの陽子があった
第2項:片方の陽子が仮想ウィークボソンを放出した
第3項:もう一方の陽子が仮想ウィークボソンを捕まえた
第4項:その結果、陽子はベータ崩壊(β
+)を起こし、中性子に変わった
全部の項から、頭の($p$)を取ってしまえば、
$p → W + p → p + W → n + e^{+} + \nu$
となって、これは、$\beta^{+}$崩壊そのものだ。ただ仮想ウィークボソンがどこからともなく登場した形になっている。
同様に(2)〜(4)も考えてみる。
(2)
$p + n → (p + W) + n → p + (n + W) → n + (p + e^{-} + \overline{\nu})$
$n → W + n → n + W → p + e^{-} + \overline{\nu}$
(3)
$n + n → (n + W) + n → n + (n + W) → n + (p + e^{-} + \overline{\nu})$
$n → W + n → n + W → p + e^{-} + \overline{\nu}$
(4)
$n + p → (n + W) + p → n + (p + W) → n + (p + e^{+} + \nu)$
$p → W + p → p + W → n + e^{+} + \nu$
結果的には、最初に仮想ウィークボソンをはき出した核子に関係なく、仮想ウィークボソンを吸い込んだ核子の崩壊が変わるだけなので、(1)と(4)、(2)と(3)は同じものであることが分かる。整理する。
@$\beta^{+}$崩壊
$p + W → n + e^{+} + \nu$
A$\beta^{-}$崩壊
$n + W → p + e^{-} + \overline{\nu}$
結論、
仮想ウィークボソンは、核子をベータ崩壊させる。何のことはない、これが「弱い力(相互作用)」である。
そして、このウィークボソンを発生させる元になる量を「
弱荷(ウィーク荷)」という。なんだそりゃあ、と思う人は正常で、私自身この名前の付け方はあまりにも安直である、とあきれている。
弱荷を持っているのは、「核子」と「電子」と「ニュートリノ」(ベータ崩壊そのまんまである)ということになり、ウィークボソン場では、核子がベータ崩壊するのである。
そう考えてくると、一つ妙なことに気づく。それは、例えば、たった一個の核子が自分ではき出した仮想ウィークボソンを自分で呼吸してもベータ崩壊するんじゃないか、ということである。
もし、この疑問をもてたら、多分、その疑問だけで、初級素粒子論の単位がもらえる。
実際にそれは起きている。前に書いたはずだ。
「裸の中性子は、放っておくと、$\beta^{-}$崩壊して、陽子に変わる」と。
これは、まさに自分自身が放出したウィークボソンで「弱い相互作用」をしているのである。
じゃあ、なんで裸の陽子は、中性子にならいんだ? という疑問が最も鋭い指摘なのだ。これは、とてつもない謎だったのである。気を持たせるようで悪いが、この回答は、『わかるまで素粒子論「常識編」』で書くことにする。(深い理由があるので、許してください。)
これで、4つの力がその姿を明確に現した。
(1)重力(重力子が媒介)
(2)電磁気力(光子が媒介)
(3)弱い力(ウィークボソンが媒介)
(4)核力(中間子が媒介)
但し、次のことも確認しておかなければならない。
(1)重力は、「質量」を持つ粒子間に働く
(2)電磁気力は、「電荷」を持つ粒子間に働く
(3)弱い力は、「弱荷」を持つ粒子間に働く
(4)核力は、「?荷」を持つ粒子間に働く(現時点では不明)
一言いいたい!
【わかるまで素粒子論「入門編」 第2章 4つの力】
目次へ 次へ進む 前へ戻る
5.ファインマン・ダイアグラム
前項では、
弱い力が働く粒子とその仕組みを文章と式だけで説明したので、読者諸氏には混乱を招いたものと推察する。
実際に物理学者達も、
素粒子論(
場の量子論と言いかえてもいい)においては、起こっていることを直感的に理解するのに苦労した歴史があるのである。
米国に、
リチャード・フィリップス・ファインマンという物理学者がいた。1988年に亡くなっているのだが、私の大学時代の教科書は「ファインマン物理学」だった。この教科書のお世話になった人は多いのではないかと思う。彼は、1965年に日本の
朝永振一郎氏、米国の
ジュリアン・S・シュインガー氏とともに、量子電磁気学の分野で
ノーベル物理学賞を受賞するなど様々な功績があるのだが、最も有名なのが、本項で取り上げる「
ファインマン図(ダイアグラム)」である。
ファインマン図とは何かをここで説明することは、ファインマン氏に失礼である。なにしろ物理学を視覚的に表現する能力では右に出るものがいないと言われた氏なのだから、ここは説明抜きで、ファインマン図を見てもらおう。
上図は、
水素原子(
陽子と
電子)における
電磁気力(電磁相互作用)を表したファインマン図である。いくつかルールがあって、それを理解すれば粒子の
相互作用を一目瞭然に見て取ることができる優れものである。
実線は、物質粒子(陽子、
中性子、電子など)を表す。波線は力を媒介する粒子(
光子、
ウィークボソンなど)を示す。実線には矢印がついているので、変化を見ることができる。
概ね、そのくらいを理解すれば、もう見てわかるはずである。
右側に陽子($p$)があって、左側には電子($e^{-}$)がある。陽子も電子も変化しないのだが、波線の光子($\gamma$)が出ているところで折れ曲がっていて頂点ができている。ここで力が伝わっていると見ればよいのである。
陽子($p^{+}$)と電子($e^{-}$)の間を光子($\gamma$)が行き来して、クーロン力が発生していることを示している。
単に力が伝わるだけなら、
重力も、
核力も同じダイアグラムで示すことができるのだが、問題は「弱い力(相互作用)」である。
下の図を見てもらいたい。
左下には中性子($n$)があり、ウィークボソン($W$)を介して、中性子($n$)が陽子($p$)に変化している。そして、ウィークボソン($W$)は放出先で、電子($e^{-}$)と反
ニュートリノ($\overline{\nu}$)に分裂している。
これがまさに
$\beta^{-}$崩壊なのである。
このあとも、機会があればファインマン図を用いて、説明を分かり易くして行くつもりである。
一言いいたい!
【わかるまで素粒子論「入門編」 第2章 4つの力】
目次へ 次へ進む 前へ戻る
6.中間子の質量
核力は
中間子が伝えるということで話をしていた。さっそく前項で出てきたファインマン図を使って核力をみてみよう。ここで中間子は$\pi$で表すことにする。
上図は、
中性子($n$)と
陽子($p$)が結びつく際のファインマン図であるが、陽子−陽子、中性子−中性子であっても状況は同じである。中間子をキャッチボールしても、陽子、中性子は変化しない。したがって、中間子は
電荷ゼロである。
しかし、中間子に電荷をもったものがあるとすると、以下のような相互作用も考えることができる。
電荷を持った中間子をキャッチボールすると、陽子が中性子に、中性子が陽子に変わるのである。ただ、どの場合でも
原子核内の陽子、中性子の数が変化しないので三つのうちのどれが起こっているのかを区別する意味がない。
ベータ崩壊(弱い相互作用)の理論は、
フェルミによって作られたが、当時はまだ弱い力を媒介する粒子という発想がなかったので、単純に中性子が陽子と電子と
反ニュートリノに崩壊するものだと考えられていた(
ウィークボソンが登場するのは、
場の量子論が発展してゆく1970年代である)。
湯川は中間子論を発表したときに、ベータ崩壊に対して、次のような解釈を持っていたようである。
つまり、放出した中間子を捕まえる相手がいないと、中間子が
電子と反
ニュートリノに崩壊してベータ崩壊が起こるという図式だ。
このアイデアは実際にはうまくゆかなかったが、後の場の量子論につながる功績として評価されている。
ここから本項の本題に入る。
そもそも湯川が核力を媒介する粒子に中間子という名前を与えたのは、この粒子が、核子と電子の中間くらいの
質量を持つと結論付けたからだ。本項では、その理由をきちんと説明しておこう。
核力と
電磁気力の大きな違いは、力が働く距離が全く異なる点だ。もしもある原子核内の核子が自分以外の別の
原子の原子核に働くほどの力であったら、原子同士が核力でくっついてしまい、そもそも今のような自然界は存在しなくなってしまう。従って、
核力とは、原子核の大きさ程度の領域でしか働かないような力なのである。(その範囲とは、$10^{-15}m$という値である。)
これに対して、電磁気力は桁違いに広い範囲に働く。原子核とその周りの電子を関東の地図で表した図を思い出してほしい。核力が働く範囲が東京駅におかれた$1m$のボールであるとしたら、その原子核と電子の間に働く電磁気力は、関東一円に広がるほど大きい(実際には電磁気力は、距離に反比例して弱くはなるが、原理的には無限の遠くまで伝わる力なのである)。
これは、力を媒介する粒子の質量に関係する。
既に述べたように、核力を媒介する中間子は、原子核の範囲にしか走ることができない。これは、中間子が存在していられる時間が極端に短いことを意味している。
そもそも、
核子(陽子、中性子)が中間子を放出するのは、エネルギー保存則に違反する。質量はエネルギーと等価($E=mc^{2}$)なのだから、中間子の放出は、無からエネルギーを生み出すことになる。
ところが、
無からエネルギーが生まれてもよいというケースがあったはずである。それが、「時間」と「エネルギー」の
不確定性原理である。(詳細は、
「なにはさておき量子論」参照)
$\Delta{t} \times \Delta{E} \geqq h/4 \pi$
$\Delta{t}$:時間の不確定(今の場案、中間子が存在してもいい時間)
$\Delta{E}$:エネルギーの不確定(今の場合は、中間子の質量$ \times 光速^{2}=mc^{2}$)
$h$:プランク定数($6.6207015 \times 10^{-34} Js$)→ $h/{4 \pi} = 0.5268586852 \times 10^{-34}$
$\Delta{t}$と$\Delta{E}$を掛け算したものが$h/4\pi$より小さくはなれないのだから、ここでは、
$\Delta{t} \times \Delta{E}=h/4 \pi$
とする。
$\Delta{t}$の最小値は決めることができる。つまり、中間子がこの世の最高速度である光速($c$)で、原子核内($s=10^{-15}m$)を端から端まで走る時間である。
これで、
$\Delta{t}=s/c$
$\Delta{E}=mc^{2}$
とおくことができて
$\Delta{t} \times \Delta{E} = s/c \times mc^{2} = smc = h/4 \pi$
となる。
よって
$m = (h/4 \pi) /sc$
で、中間子の質量を求めることができる。具体的に値を代入すれば
\begin{eqnarray}
m &=& 0.5268586852 \times 10^{-34} / ( 10^{-15} \times 299792458)\\
&=& 1.75883747 \times 10^{-29}
\end{eqnarray}
となって、電子の質量($9.1093837 \times 10^{-31}kg$)と比較すると約$193倍$となるのである。
中間子が核子と核子の相互作用を担う(核力を媒介する)ためには、最低でもこれだけの質量がどうしても必要になるのである。
次章へ 一言いいたい!